期待値とは何か(定義)
「パチンコとは何か」「スロットとは何か」の記事で、「参加料100pt・1/6のサイコロで1の目が出たら賞金600pt」というゲームを、深く説明せずに「イーブンな勝負」と呼んでいた。実はこのとき、既に頭の中で期待値の計算をやっていた。今回はそれに、ちゃんと名前と記号を与えていく。
まず、これから出てくる記号が何の略なのかを先に済ませておく。
- E = Expectation(期待)の頭文字。「期待値」を表す記号として、E(X)のように書く
- P = Probability(確率)の頭文字。「P(A)」で「Aが起こる確率」を表す(「確率とは何か」の記事で既に使った記号と同じ)
- X = 「結果として得られるpt」を表す確率変数(まだ値が決まっていない結果を表す記号)。サイコロを振る前は値が決まっておらず、振った後に600ptまたは0ptになる
アルファベットの後ろの方(x, y, z)が未知数として使われる慣習があり、確率論でもその流れを受け継いでいる。ここでは、仕組み全体(まだ値が決まっていない確率変数)を表すときは大文字のX、実際に取りうる具体的な値(600ptや0ptなど)を表すときは小文字のxと使い分ける。
サイコロを振った結果、Xが取りうる値は2つしかない。当たれば600pt、外れれば0pt。これを、期待値の式に当てはめてみる。
= 600pt × (1/6) + 0pt × (5/6)
= 100pt
「結果 × その結果が起こる確率」を、起こりうる結果の数だけ全部足す。これが期待値の計算のすべてで、E(X)=Σx・P(x)という書き方は、この「足していく」作業を省略して書いただけの記号にすぎない。Σはギリシャ文字のシグマで、「全部足す」という意味。難しく見えるが、要するに「全部足す」を1文字で書いただけだ。
参加料もちょうど100ptだったので、「平均すれば損得ゼロ」というイーブンな勝負だったことが、この数式で裏付けられる。パチンコ・スロット両方の記事で既にやっていた「600×1/6=100」という掛け算は、実はこの期待値の計算そのものだった。
- 期待値
- ある確率的な出来事について、起こりうるすべての結果に、それぞれの確率を掛けて合計した値。「平均するとどのくらいの結果になるか」を表す数であり、実際に1回試したときにその値になるとは限らない。
この考え方は、賭け事の揉め事から生まれた
実は、この期待値という考え方のルーツは、17世紀のギャンブルの掛け金トラブルにある。ある貴族が「賭けを途中でやめた場合、掛け金をどう分配するのが公平か」という問題を数学者に持ち込み、数学者のパスカルとフェルマーがこれを手紙でやり取りしながら解決していく中で、期待値という考え方の土台ができあがった。パチンコ・スロットで当たり前のように使われる期待値という考え方も、そのルーツをたどると、400年近く前の賭け事のいざこざに行き着く。
参加料が変われば、期待値も変わる
パチンコとは何かの記事で、「台の個体差」という話をした。同じサイコロ・同じ当選確率・同じ賞金600ptの台が3台あっても、参加料だけがA台100pt、B台90pt、C台120ptと違う、という例だった。あのときは「参加料の差はそのまま損得の差として積み重なっていく」とだけ書いて、具体的な数字までは示さなかった。ここで、期待値を使ってその差を数値にしてみる。
受け取るptの期待値は、第1章で計算した通りE(X)=100ptだった。ここに参加料を差し引いて、実際の損益(利益)を考えてみる。
A台(参加料100pt):利益の期待値 = 100 − 100 = ±0pt
B台(参加料90pt):利益の期待値 = 100 − 90 = +10pt
C台(参加料120pt):利益の期待値 = 100 − 120 = −20pt
1回あたりではわずかな差に見えるが、これを100回プレイした場合で比べると、A台は±0pt、B台は+1,000pt、C台は−2,000ptと、差が大きく広がっていく。ゲームのルール(当選確率・賞金)が一切変わっていないのに、参加料というたった1つの数字が違うだけで、長く遊ぶほど損得がはっきりと分かれていく。
このサイコロゲームでいう「参加料」が、パチンコでは「1回転させるために必要な平均投資額」にあたる。つまり、「よく回る台」が有利なのは、運が良いからではなく、参加料が安いゲームを選んでいるからである。
期待値は「毎回その通りになる」わけではない
ここまで、期待値100ptのゲーム、+10ptのB台、といった具合に数字を出してきた。しかし、ここで1つ注意しなければいけないことがある。期待値100ptのゲームを1回やったからといって、実際に100ptが手に入るわけではない。
「期待値3,000円のゲーム数から打ち始めたのに−15,000円だった」というのは、現実に十分あり得る話だ。そういうとき、「期待値積んで偉いね(笑)」と茶化されることもある。
でも、これは必ずしも期待値の計算が間違っていたという話ではない。期待値は、1回の結果を予言する数字ではないからだ。1回打って負けることも、逆に期待値の低い台で大きく勝つことも、普通に起こりうる。
先ほどのサイコロゲームを思い出してほしい。1回振った結果は、当たって600pt(確率1/6)か、外れて0pt(確率5/6)のどちらかしかない。100ptという結果は、そもそも1回では絶対に起こらない。期待値の100ptとは、「このゲームを何度も繰り返したときの結果を平均すると、理論上100ptになる」という数であって、次の1回の結果を言い当てるものではない。
期待値100ptのゲームを10回プレイしたとする。実際に起こりうる結果の一例:
・10回とも外れ → 合計0pt(期待値の10倍=1,000ptには程遠い)
・1回当たり・9回外れ → 合計600pt
・2回当たり・8回外れ → 合計1,200pt(期待値の1,000ptを上回る)
10回やったからといって、ちょうど1,000pt(100pt×10回)になるとは限らない。期待値は「保証」ではなく、あくまで「平均するとこのあたりに落ち着くはずだ」という見通しの数字である。
パチンコ・パチスロの番組やYouTubeの実践企画で、「誰が一番上手いか」を単日〜数日の収支で競う企画をよく見かける。仮に、設定6・機械割110%の台を10,000G打った人がほとんど勝てず、設定1・機械割97%の台を5,000G打った人がたまたま大きく勝ったとする。あくまで仮の数字だが、収支だけを見れば、後者が「一番上手かった人」になってしまう。
もちろん、それも番組としては十分面白い。ただ、その日の収支と、その人がどれだけ期待値の高い選択をしていたかは別の話だ。「そんなにパチスロが上手いなら、今日中に増やして、明日には色つけて返してくれよ」と言われることもあるが、期待値がプラスの遊技を選ぶことは、そんな短期間で必ず増やせるという意味ではない。
上手さは、短期の収支だけでは測れない。
では、何回やれば実際にこの100ptという数字に収束していくのか。そもそも「収束する」とはどういうことなのか。これは次の記事、大数の法則の話につながっていく。
まとめ
期待値とは、起こりうる結果にそれぞれの確率を掛けて合計した、E(X)=Σx・P(x)という数だった。パチンコ・スロットの記事で既に使っていた「600×1/6=100」という計算は、実はこの期待値の計算そのものであり、また「参加料の差」も期待値を使えば具体的な損得の数値として示すことができた。ただし、期待値はあくまで平均の見通しであり、1回1回の結果を保証するものではない。